全ての物事をいつまでも分かち合いたいと思うんだ。例えば君が悲しければ、僕も悲しくなるし、君が笑えば僕も嬉しくなるような、そんな当たり前の事をずっと、ずっと。何かに迷ったら一緒に悩んでそうして答えを導いていきたいんだ。いつまでも。僕が怪我をすれば泣く君に、僕が少し笑うだけでずっと笑ってくれる君に、僕の手を引いてくれる君の為に、の為に、僕が出来る事。





「・・・何一人で勝手に出掛けてるの」

「さっき電話で言ったように恭弥、昨日帰って来てから珍しく爆睡だったから起こすのに気が引けたの」

「だからって、一人で出掛けるのは危なすぎるって言ってるんだよ」

「別に危なくないと思うんだけど・・・」

「危ないから言ってるんだけど。何度も言ってるよね、今は一人の体じゃないって。何度言えば解るのさ」

「わ、解ってるよ・・・!」





少しだけむっとしたような顔をしては僕を見るけれど、怖いどころか寧ろ、何か可愛かった。僕は昨日夜の入り口の時間帯に、長い長い任務が終わって漸く帰りたかった場所へと帰って来れた。と言うのに僕は昨夜の帰ってきてからの記憶が殆ど無い。帰って来て、が出迎えてくれた所までは覚えてる、けれど其の後が朧気で曖昧だ。曖昧でも憶えているのは、真っ暗な寝室でが酷く安心したような、泣き出しそうなそんな表情で僕の髪を撫でてたとき、だけ。如何したって長期の任務にでもなれば心配なんだろう、そんな表情を何度僕はさせてきたんだろうか。そんなことを思いながら又意識は落ちて、次に目覚めたときにはとっくに日が昇りきった時間帯。辺りを見てもいつも壁に寄りかかりながらでも、僕の布団の傍にでも座って本を読んだり、ヘッドフォンで音楽を聴いているのに今日は姿が無かった。其の辺にいた奴を捕まえて聞いてみれば出掛けました、とか普通に返してきていらっとしたけど昔ほど喧嘩っ早くなくなったから部屋に戻ってに電話してみる。聞いた奴の言った通り、は出掛けてた。しかも、誰も連れないで一人で。





「嘘だね。自覚あるなら僕を起こしてるはずだから。最初に言ったよね、出掛ける時には危ないから一人で出かけるな、って」

「だ、だって本当に恭弥穏やかに寝てるんだもの!起こせないよ、あれじゃあ・・・」

「・・・其れでも、起こして。に何かあったら本当に困るから」





場所を聞いて、駅前って言うから絶対に動くなって念を押してから通話を切った。急いで着替えて車の鍵を引っ掴んで飛び出す。鍵を差し込んで捻り、エンジンを掛ける。ギアを入れてサイドブレーキを落としてからアクセルを踏んだ。懐かしい街並み、道、ほんの少し離れていただけなのに。オーディオからはの好きなアーティストの曲が流れてて、此の人たちの歌を聞くのも久々だと思う。久々すぎる日常なのに、今、此処にはがいない。思うと、ハンドルを握る手に少しだけ力が籠もった。





「・・・けど恭弥、久しぶりに帰って来て疲れてるから、やっぱり寝かしてあげたかったから」

「こんな疲れくらい、任務真っ最中と比べれば如何って事ないんだよ。其れよりも、こうやってに一人で出掛けられる方がよっぽど僕は精神的に疲れる」

「え、あ・・・ご、ごめん・・・」





謝るの隣に腰を落として、一つ息を吐く。横を見れば眉を下げて本当に申し訳なさそうな顔をしたが俯いてて、何となく良心が痛んだ反面、もう少し自覚して欲しいと本気で思った。僕がいない間にこんな調子で何かあったら困るんだから、本当に。そりゃあ、今のにストレスを掛けるのは駄目って言うのは解ってるんだけど、きちんと自覚はして欲しい。僕がいないってことで、ストレスを掛け続けさせていることはもう、今更。出来るだけ与えたくないのに、如何しても行かなければならない長い任務の間は他の奴らに言って、ストレスを感じさせないように如何にかしてもらってはいる、けれど。他力本願、とか、他の奴を頼る事はあまりしたくないのに。特に関係の事には。





「・・・ほら、行こう。今日はが行きたいところにも買い物にも付き合うから」

「う、ん」

「・・・あのね、もっと嬉しそうにしてよ。久しぶりに二人で出掛けてるんだからさ」

「あ、そう言えば、そっか・・・!」





さっきまでのあの表情は何処へ、と聞きたいくらいの顔は変わって嬉しそうに笑んだ。釣られて僕も少しだけ頬を緩める。が笑うと、嫌な事も少しだけ消えてしまうような錯覚にすら陥ってしまう。そんな風に思う僕は相当、に惚れ込んでるんだと思う。自分で言うのも、何だけど。だから敏感になってしまうんだろう、きっと。





「ん、掴まってて。転ばれるのが一番怖いから」

「転ばないよ!いつも転んでるわけじゃないんだから、時々躓くだけだもの!」

「・・・其れが怖いんだよ」





の小さい手を掴んで握り締める。離れないようにと強く。僕はいつも与えられてばかりだから、何をあげれば良いのか解らない。こうして傍にいても、如何したら良いのか解らなくなる事もある。けれど、僕の与えられるもの全ては与えてあげたい、温もりとか、精一杯の僕の優しさを。其れを笑って嬉しそうに受け取ってくれるのを見たいと思う。僕は此れだけ生きてきて歳を取っても、手の中には誇れるものは何一つ無くて、どちらかといえばもっているものは余り良いものではない。けれど、其れでもの傍にいたいと思う、は傍にいてくれる。其れもまた、が僕に与えてくれる幸せなんだろう。だから、が腕の中一杯に抱えた幸せを一つもなくさないように僕は頑張りたいと、思うんだよ。





「で、何処に行きたいの」

「まずは本屋!」

「ねえ、今度は何の本を買うつもり?あれだけ色々小説とか漫画とか買ってるのに」

「・・・子供の名前の付け方の本がね、欲しいの」

「・・・・早いと、思う、けど」

「そうかな・・?けど、やっぱり早くから色々考えておきたいじゃない、恭弥との子供だもの。誰よりも幸せになってくれる名前にしたいから」





柔らかく、愛おしく笑う。君が悲しければ僕も悲しくなるし、君が笑えば僕も嬉しくなる。何かに迷ったら一緒に悩んでそうして答えを導いていきたい。僕が怪我をすれば泣く君に、僕が少し笑うだけでずっと笑ってくれる君に、僕の手を引いてくれる君の為に、の為に、僕が出来る事。其れはとても簡単。僕に出来る最大で、最上級の事。何よりもきっと、大事な事。いつまでも僕は其の言葉を君に。












滑稽だろうか
宝石を抱きしめる











(誰よりも愛してる、と)   2007,10,14


企画「Una persona adorata!」さまに提出!素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!